いや、正しく言えばグチを聞かされてる、ってとこかな。
中学で同じクラスだった友人Gが、高校で同クラスだったSの話しに付いて行けない、という。
我っちとGとは高校が別で、我っちはSなる人物をまったく知らないんだ。
Gによれば、Sの話しはいやに世間離れした優雅なものらしく、いくつか例を挙げれば次のようなもんだって。
『神奈川県のタワーマンションに住んでるが、東京文京区の実家もカバーしなくちゃいけないんで、なかなか大変だよ』
*Gは訊いた:神奈川のどこ?
『川崎の辺りも変わったね、タワーマンションが林立だよ』
『36フィートのパワーボート、宝の持ち腐れみたいになってきたよ、考えものかな?』
*Gは訊いた:へ~、ボートいいね♪ 一回誘ってくれよ。
『瀬戸内海のマリーナに置いてるけど、乗りに行く機会がとれなくてね』
『定期演奏会の練習に借り出されるから、結構、しばられるね』
*Gは訊いた:へえ~、ナニをやってるの?
『バイオリンだよ』
*Gは訊いた:N響とか日フィルとか‥‥?
『そこまでメジャーじゃないけどさ、地方自治体の交響楽団って意外にマシだよ』
『このまえ、岡山まで日帰りドライブをやった。久しぶりに気分爽快だったね』
*Gは訊いた:あれえ、クルマのことは初めて聞いたな。こっち(東京)に来るには、いつも電車なんだろ?
『東京圏には向かない車なんだよね。空いた道がないし。イギリスのスペシャルカーは道を選んでしまうね』
*Gは訊いた:まさかロールスロイスじゃないだろうから‥‥。
‥‥‥と、まあ、こんな具合で、肝心の詳しいところははぐらかされるらしい。世界が違いすぎて返事ができない。ほんとはもう会いたくないけど、向こうからやって来るらしい。だけども住所はいまだに判らずじまいだって。
眉ツバっぽさを感じながらも、我っちは感じるところを友人Gに伝えたよ。
聞くと、そのSさんは、ボートやバイオリンやら、車について、それぞれの詳しい話もするらしいけど、残念なことにGはメカに弱い男だから、ナニを聞かされたのか理解していないようだし、だから憶えてもいないようだ。
我っちはこんなことを友人Gに語った。
●世のなか、派遣会社がいろいろあって、力仕事が中心のところ、知的仕事が得意なところ。Sさんんはもしかして知的仕事をする派遣会社と契約してる社員じゃないの? 客先の引っ越しに室内レイアウトをアドバイスしたり、交響楽団の移動や舞台セッティングに関わってて、クラシック音楽にも詳しかったり。イギリス車のショールームやモーターショーにも派遣されて、実際にアストンマーチンやらマクラーレンなんぞのシートに座ったかもしれない。
つまり、仕事でいろんな高級モノに触れる機会があって、知識も増えてるんじゃないか?
それを自分の暮らしのように語ってることが考えられなくもない。もちろん、Sさんは勉強家なんだろうね。それだけのモノを自分の知識として蓄えるチカラはあるんだよ。
でも、病的な誇大妄想か? 計算づくのウソつきなのか? 我っちには判断できない。