まだまだ幼かったころ、正しく言えば小学低学年のころ教室や校庭で遊んでて、級友に背後から突然に羽交い絞めされ『タイホする！』なんてやられることがあった。わけは判んないのだけど、そのころ『タイホする』って言葉がはやってたんだ。
「メンコ打ちでズルをした」ってのがそのときのタイホ理由だった。
「離せ、離せっ」って叫びながら悶えてると、こんどは別のヤツがやってきて『タイホする！』。
そいつは我っちの両足首をつかんで自分の両脇に抱え込んだ。「缶蹴りゲームでズルをした」なんて理由を叫んだ。我っちは二人の間で持ち上げられた格好になって自由が利かない。缶蹴り野郎が来なけりゃ、メンコ野郎とは話をつけるつもりがあったのに、悔しい。
メンコ野郎には、横綱・東富士が描かれた大きめの丸メンコをあげちゃうって話を持ち掛けて許してもらって、自由の身になるはずだったのに、缶蹴り野郎、そのチャンスを取り上げちまったじゃないか！ くそっ！ 缶蹴りゲームのズルなんて、我っちには覚えがないぞ。
こうして『タイホ』は、遊びの中で面白く楽しく使われた。そしてタイホの後にどこかに押し込めるなんてことは無く、翌日はまた仲良く遊ぶのだった。
それにしてもあのとき、缶蹴り野郎が別件タイホさえしなければ、メンコ野郎との話し合いはスムーズにできたのに‥‥なんて思ったりした。
でも、考えようでは、大事にしてた東富士や千代の山の丸メンコを手放さずに済んだってことで、別件タイホは我っちを助けたってことになるのかな？