昔、親父はほおずきを鳴らしてた。おふくろが鳴らしてるのは、覚えがない。
ウチでのほおずきは海のほおずきだった。あの浅草で見る赤い丸っこいのとは全然ちがう。聞くところによれば、その海ほおずきは、なんとかいう巻貝の卵らしくて、海底の石や岩、沈んだ木切れなんぞに産み付けるんだそうで、それが漁師の網にかかって引き上げられるんだそう。
この絵は、遠い昔の印象を描いてみたけど、木切れに並んだ卵は、もっと整然と同んなじ大きさだった。これをひとつ摘み取って、ハサミの先端を使って真ん中に三角の穴を開け、中にあるタマゴの中身(ドロッとしてたかな?)を絞り出して全体を水洗いし、口に含む。舌で位置決めして前歯で挟み、上側の前歯と舌で圧迫しながら音を出すんだ。「ぶにゅ、ブユっ」ってな音が出た。
大きさは、産み付けられてるグループごとに一定で、長さ3センチほどのが鳴らしやすかったな。
思うにこれは、おふくろのウチからもらったもんだろう。漁もしてたからね。親父は襖貼りなんぞの仕事で客の家に出かけることが多かったけど、ウチを出る時にゃほおずき、鳴らしてたよ。まさか客先の家じゃそんなことはしてなかったと信じてるけどね。親父の言葉を聞くと「ほおずき」よりも「ほおづき」と言ってたような印象がある。貝の卵だとすれば季節的にも限られてたはずだけど、そこまでは覚えがない。
そんなわけでウチでのほおずきは「海ほおづき」なんだよ。