フランスパン

ふつぅに普及し定着してるフランスパン。我っちが正面から受け止めたんは博多時代、23歳のときだった。

アートディレクターとして勤務してた会社のクライアントに、ロイ●ルがあった。当時、東中洲にあった。そこに担当者としてカメラマンと一緒に出向いたんだけど、まず順序としてはそのカメラマンに触れなくちゃなんないんだ。

Ａさん。30代後半のカメラマンだった。何かのコンテストで賞を貰いフランス・パリへの外遊をプレゼントされたんだけど、博多に帰って来てから間もなくの仕事でのタグだった。

そのときのロイ●ル、どんな仕事だったか、もう憶えも薄らいでるけど、ロイ●ルの社長がフランスパンの普及に熱心なお人で「お宅の食卓に食パン、それはそれでいいですね。でもフランスパンをもっと知って、正しい方法で食べれば考えも変わりますよ」なんてな話から、フランスパンの食卓への導入を丹念に説かれた。その内容は簡単なイラストにして最後にアップするから見てってくださいね。

で、Ａカメラマン、スタジオに戻ってから、パリでの体験を話しておくれだったんだ。包装しない裸のまんまのパンを、他の品物と一緒に抱える買い物帰りのお母さんなんて、よく見かけたそうだ。また、別な旦那と思しき男が、長いパンを小脇に抱えて歩く姿も、よく見たそうだ。もちろん、そのパンも裸だったって。

後日、我っちはアメリカの雑誌Ａrt Directionで、フランスの男が自転車に乗って走る後ろ姿の写真を使った広告作品が紹介されてるのに行きあたって、ああ、これがＡさんの話の証拠なんだなと、思った。その自転車の荷台には長いパンが２本だったか括り付けてあって、パリの街中だろうと思われる石畳の道を走り去ってる写真。そのことをＡさんに話したら「海比古さんも、裸の長いパンを小脇に抱えて博多の街を歩いてごらん。カッコよくて注目されるよ」てな言葉が返ってきた。アハハ、そのソソノカシに乗っちゃった我っち、やっぱり恥ずかしくて１回でやめちゃったな。もっとも博多時代は寮暮らしだったから、自分で食事を作るなんてことは無い。能書きだけは身に付いたけど、フランスパンとはその辺りで縁が切れたんだった。

そういえばＡさんのお宅に遊びに行ったとき、冷蔵庫を覗くチャンスがあって驚いたんは、牛乳が１リットルは入っていそうなでかい瓶が冷やしてあった。あの、紙蓋の牛乳瓶しか知らない我っちは、Ａさんって、おしゃれな暮らしをしてるんだなあ～、なんて感じたもんだ。奥さんもモダンなお人で、博多の雰囲気はひとかけらも感じなかったお宅だったな。

東京に舞い戻ってしばらくたったある日、青山通りと骨董通りの交差点近くでＤOＮＱ（ドンク）というフランスパンを売る店に出会った。アパート暮らしで、たまに自炊も始めてたんで、その店の存在は嬉しかった。５年ほど会社勤めをし、その後独立して会社を立ち上げた。そして５～６年は経ってただろうか、つまり東京に戻ってから10～11年くらいはＤOＮＱとの蜜月が続いていたんだね。ある日パンを買いに立ち寄ったら店が無いんだよ。ＤOＮＱとはそれっきりになっちまって、しばらく（数年）の間はフランスパン無しの暮らしだった。そうしたある日のこと、麻布十番を歩いてたらフランスパンの店に出くわしたんだ。またぞろフランスパンとの蜜月は始まった。とは言っても毎食をそうしてるんじゃないから、タマ～にだけどね。それに我っちの会社は渋谷にあり、結婚した我っちは世田谷・等々力に住み始めてた。だから麻布十番での買い物は便利じゃなかったわけだし。

そんなこんなの暮らしのなかで親父が死んじまった。あれこれ考えた末にウチを建て替えて、下町に住むようになった。食事の調理は、基本、カミさんがやってくれたんで、我っちが麻布十番に買い出しに出かけることもなくなった。

もう4～5年は経つのかな、会社を譲って渋谷まで通勤することもなくなって、下町暮らしが身に付き始めたんだけど、たまにフランスパンを食いたくなる。近くのスーパーでヤマ●キのフランスパンを買ってはみるけど、ダメなんだな。それでも本物を売ってる店を知らないから我慢しながらヤマ●キさんを食ってきた。でも、そろそろ我慢の限界に近いよ。こうしてブログのテーマにしちゃったのも、原因はそこにあるね。